咳は感冒などで日常よくみられる症状です。ただし感冒による咳はたいていの場合1週間程度でおさまります。みなさんも咳があっても初めは特に気にしないでしょう。しかしそれが3週間、あるいは1か月続いた場合はどうでしょうか。“肺癌それとも結核?”。そんな心配をするのではないでしょうか。
医学用語では咳が続く期間が3週間以内なら『急性咳嗽』、3週間以上続く場合を『遷延性咳嗽』、2か月以上続く時には『慢性咳嗽』と言います。下のグラフをご覧下さい。急性咳嗽ならほとんどの場合が感冒や気管支炎などウイルスや細菌による『感染症による咳嗽』です。咳が治らず遷延性咳嗽、慢性咳嗽と呼ばれる状態になるにつれて『感染症以外による咳嗽』が多くなることがわかります。 それでは咳が長く続くとやはり“肺癌それとも結核?” 実は違います。1,2週間以上咳が続いても気管支炎、その中でも特に咳が起きやすいマイコプラズマや肺炎クラミジア、または百日咳菌などの微生物による感染が考えられます。それ以上咳が続いた場合(遷延性咳嗽や慢性咳嗽)でも、『感染症以外による咳嗽』の原因としては気管支喘息や咳喘息、アトピー咳嗽などの疾患が大半です。また意外ですが副鼻腔炎などの耳鼻科領域の疾患、そして逆流性食道炎なども長引く咳の原因になります。もちろん肺癌や結核、あるいは間質性肺炎などの疾患も見落とせません。 我々医療者はこれらの疾患の可能性を常に考えながら外来での検査や治療を行っています。
(日本呼吸器学会編【咳嗽に関するガイドライン第2版】より)
自覚症状だけで確実に診断できるものではありません。ただし疾患によっていくつかの特徴があります。
1)周囲の人(家族や職場など)が同じように咳をしている時:ウイルスや細菌による感染症(気管支炎など)が考えられます。
2)感冒などの際にこれまでも咳が長くことが繰り返しあった時:喘息や咳喘息が考えられます。
3)痰が多い時:喘息や気管支炎などでも痰はありますが、量が多くて長く続く時には副鼻腔炎で多く見られます(寝ている時に鼻水が喉の後ろに落ちてくる『後鼻漏』という症状が特徴的です)。
4)“ヒューヒュー、ゼイゼイ”などの症状を伴う時:気管支が狭くなった時にみられる症状で、気管支炎の場合もありますが喘息を強く疑う症状です。
5)咳がよく出る時間は?:夜間や明け方に多い時は喘息や咳喘息、アトピー咳嗽などで多い傾向にあります。
6)胸やけや胃液の逆流などがある時:逆流性食道炎などでみられます。
咳が続く場合には一般に次のような検査が必要です。
1)胸部レントゲン検査:肺癌や肺結核、間質性肺炎などの疾患を見落とさないようにするのに必要です。
2)血液検査:炎症の程度のチェック(CRPや白血球数)や微生物に対しての抗体検査(マイコプラズマ、肺炎クラミジア、百日咳など)が行われます。そして喘息や咳喘息、アトピー咳嗽などが疑われる時にはアレルギーのチェックも行います。
3)喀痰検査:喘息、咳喘息、アトピー性咳嗽の時に見られる好酸球の有無、結核菌や気管支に感染する細菌の培養検査、そして喫煙家の場合には細胞診(癌細胞の有無)などが行われます。
4)その他:喘息を疑う時には『気道可逆性試験』と言って、気管支拡張薬を吸入してもらいその前後で呼吸機能検査を行って気管支の状態を判断します。
それぞれの疾患に合わせた治療を行います。
喘息に関しては別項をご覧ください。
咳が長引く場合には市販の咳止めを漫然と服用するのではなく、必ず内科、特に呼吸器内科を受診してみて下さい。